大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

津地方裁判所 昭和42年(ワ)6号 判決

原告

加藤保文

被告

有限会社中末鉄工所

ほか一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告等は各自原告に対し一、金一三七万八、八三〇円及び之に対する被告有限会社中末鉄工所は昭和四二年一月二五日以降、被告清水水子は同年同月三一日以降、各完済迄年五分の金員を支払え、二、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並に一、につき仮執行の宣言を求めその請求原因として次のとおり述べた。

一、原、被告らの地位

原告は、訴外橋本功之助に雇われて大工職をしているものであり、被告清水水子は乗用自動車の運転手として被告有限会社中末鉄工所所有の「三4は八五五号」セドリツク乗用兼貨物自動車の運転に従事しており、被告有限会社中末鉄工所は自己所有の本件自動車を被告清水水子に貸与し使用せしめているものである。

二、不法行為の存在

昭和四〇年七月一二日午後六時一五分ごろ、原告は伊勢市国道一六七号線を原動機付自転車に乗り度会郡二見町より汐合橋を渡り伊勢市に向い道路の左端を交通法規どおり安全運転をして進行した。ところが被告清水は、被告有限会社中末鉄工所所有にかかる日産NP31―40セドリツクの乗用車を運転して伊勢市から東進して前記汐合橋西側付近位置で時速六、七〇キロでセンターラインをオーバーし尚且つじぐざぐに暴走して来たため原告に危機を感ぜしめ汐合橋の西詰から西方約三〇メートルの地点において原告の進行方向の右にハンドルを切らしめ左前部のバンパーに原告の車の左側ハンドル足台付近を激突させて一二、三メートル右端に転倒せしめ、よつて原告の右原動機付自転車を横転させて大破させたうえ、原告を地上に顛倒させ、原告に対し左下腿仮関節左足関節拘縮左下腿骨々髄炎等の重傷害を加え、そのため原告は昭和四〇年七月二一日より一年八か月間伊勢市立伊勢総合病院に入院、その後引続き六か月間通院して治療を受けたが左足は骨折のため継続して歩くと障害を来す不具となり、従前のとおり完全に仕事をすることができなくなつたものである。

以上の次第で原告の無過失に対し被告の無謀運転に基づく重大な過失は免れ得ない事故であることが明白である。

三、不法行為による損害ならびにその金額について

1  被害者たる原告の得べかりし利益は、別紙第一計算書記載のとおり金七六万一、六〇〇円である。

2  被害者たる原告の第二種原動機付自転車七五ccの大破による損害は金四万円である。(昭和三九年七月ごろ買入価格金七万九、〇〇〇円にして一か年間使用しているからその間の減価償却分を減額した残額の損害である。)

3  被害者たる原告の前記伊勢総合病院の入院料薬料等の治療費一切は合計金五万六、〇六一円ぐらいである。その明細は別紙第二計算記載のとおりである。

4  原告が本件事故により傷害を受けた左足骨折のため継続歩行障害の不具となり働く能力にも悪影響を及ぼし、これからの一生の精神上の苦痛は甚大であり慰藉料としては金二〇〇万円が必要である。

5  右1、2、3、4の総額は合計金二八五万七、六六一円であるが被害者たる原告にも少しは過失があり、双方の過失を二分の一と計算して金一四二万八、八三〇円となるところ、昭和四〇年一一月中旬ごろ被告より治療費の内金五万円の支払いがあつたからこれを控除すると差引残額は金一三七万八、八三〇円となり、これが原告の蒙つた損害である。

四、被告らの賠償義務

被告清水水子は、右現実の不法行為者として、また被告有限会社中末鉄工所は自動車損害賠償保障法および民法の規定によつて各自前記損害の賠償義務がある。

仍て原告は被告等に対し各自前記損害賠償金一三七万八、八三〇円及び之に対する被告等に対する各訴状送達の日の翌日である被告有限会社中末鉄工所につき昭和四二年一月二五日以降被告清水水子につき同月三一日以降右完済迄年五分の割合に依る遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。

被告の抗弁事実を総て否認した。

〔証拠関係略〕

被告両名訴訟代理人は主文同旨の判決を求め次のとおり答弁した。

一、請求原因事実に対する認否

第一項中被告清水運転の車が被告有限会社中末鉄工所の所有であることは認める。原告の職業は不知。その他は否認する。

第二項中交通事故の日時場所、原告の車と被告清水運転の車とが衝突し原告が転倒負傷した事実は認める。

右事故の原因が被告清水の過失に基くとの点は総て否認する。

その余は総て不知

第三項は不知

第四項は否認する。

二、被告清水の主張

被告清水は本件事故当時車を運転して伊勢市方面から二見町鳥羽市方面に向け略西から東に向け道路の左側を進行したが汐合橋の手前では道が右にカーブになつており且上り坂になつているため特に前方に注意し速度も三五キロ程度に落して進行した。ところが折柄原告は雨中に雨具を着けず顔を下に向け原動機付自転車に乗り時速約六、七〇キロの猛スピードで橋のたもとから西に向つて、而も法規に違反し道路中央線より右側を更に右端に向つて直進暴走したため自車の左側足台附近を被告の車の左前部バンバー附近に激突させ転倒負傷したものである。従つて本件事故は原告の重過失に因るものであり被告清水には些かの過失もない。

三、被告有限会社中末鉄工所の主張

縦令同被告会社が自動車損害賠償保障法第三条に所謂自動車の運行供用者に該るとしても前叙の通り本件事故は原告の一方的重過失に基因するものであり且被告会社は本件自動車の運行に関し注意を怠らなかつたし自動車に構造上の欠陥乃至は機能の障害など無かつたのであるから同被告会社には何等の責任もないものである。

四、被告等の抗弁

仮に被告清水に過失があつたとしても原告と被告両名との間に被告等に於て見舞金一万円を原告に贈与すると共に被告会社の強制保険金の枠内で原告が治療費等の給付が受けられるよう協力し原告は被告等に対し何等損害賠償の請求をしない旨の示談契約が昭和四〇年七月二八日成立し原告は之に基き相当額の保険金を受領したのであるから今更本訴請求をするのは理由がない。

〔証拠関係略〕

理由

一、争いのない事実

原告主張の日時場所で本件事故が発生しそのため原告が負傷した事実

二、右事故発生の原因―争点

原告は原告と被告清水双方の過失に基因すると主張するに対し被告等は原告の一方的過失に基因し被告清水に過失は存しないと抗争するので先ず此の点につき判断する。

〔証拠略〕を総合すると次の事実を認めることができる。

(1)  事故現場は伊勢市一色町地内国道一六七号線上汐合橋(下を流れるのは五十鈴川)西詰約三五メートル位西寄りの路上でありその附近で汐合橋に向つて稍左にカーブし且緩い登り坂になつており道路の幅員は約六、三メートルである。尚当日は小雨が降つていた。

(2)  被告清水水子は本件車を運転して右国道を略西から東に向い(伊勢市方面から二見鳥羽方面に向い)時速約四〇粁位で道路左側部分を進行し本件事故現場附近に差蒐つたところ折柄原告の乗つた単車が反対方面から汐合橋を渡り切つて橋の西詰に出て来たところを見掛けた。その時双方の距離は約四〇メートル位であつた。ところが原告の車は其処から真直ぐ西方に向い道路の中央部を越えて之より北側(原告の方から見ると右側)に恰も被告清水の車の正面に向つて来るような格好で時速約五~六〇粁位の相当速い速度で進行して来た。被告清水は左にハンドルを切れば自分が左約三メートル下の田圃に突込むことは必至であつたので突嗟の判断でハンドルを右に切つて原告の車との衝突を避けんとしたがその余裕がなく原告の車に同被告運転の車の左前部に衝突した

(3)  事故直前訴外佐藤和見は原動機付自転車に乗つて被告清水の車と同方向に走行していたが事故現場手前で被告清水の車を追越し道路左側を走行して事故現場の少し先(汐合橋寄り)に行つた処で原告車とすれ違つたがその時原告の車はセンターラインを越えて佐藤の車の右ハンドルの端をかすめる程度に凄いエンジンの音を立てながら通り過ぎたが一瞬の後本件事故が起きた。

以上の諸事実を認めることができる。〔証拠略〕中右認定に反する部分は当裁判所信用をせずその他右認定を覆すに足りる的確な資料は存しない。

右認定の事実に基いて考えると本件事故は原告の一方的な重過失に基くもので被告清水は右にハンドルを切つたのが精一杯の措置であり、事故を避ける術はなく結局同被告には過失責任はないものと認めざるをえない。

三、被告有限会社中末鉄工所の責任

被告清水の運転していた車が被告有限会社中末鉄工所の所有であることは同被告の認めるところであるから同被告は自動車損害賠償保障法第三条所定の自動車運行供用者に該当することは明かである。

然しながら本件事故につき自動車の運転者である被告清水に過失が存しないことは前項認定の通りであり又被告清水水子本人尋問の結果に徴すると被告会社は本件自動車の運行に関し注意を怠らなかつたし、右自動車に構造上の欠陥も機能の障害も無かつた事実が窺えるので同被告もまた損害賠償の責任は無いものと為さざるをえない。

四、結論

以上の通りであるから原告の被告等に対する本訴請求は他の点に付き判断する迄もなく失当として棄却を免れない。

仍て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 後藤文雄)

〔別紙〕 第一計算書

一、原告の得べかりし利益

1 原告は大工として度会郡二見町江に居住する橋本大工に雇われていた。

2 一日の収入は金一、六〇〇円であり、一か月二八日間働いていたので一か月の収入は合計金四万四、八〇〇円である。

3 本件事故により受傷した翌日の昭和四〇年七月二二日より同四一年一二月二一日まで一年五か月間休業したので、この間における収入は合計金七六万一、六〇〇円であるところ、右金員は収入できなかつた。

第二計算書

一、病院医療費

1 伊勢市立伊勢総合病院に40・7・21より41・12・20まで入院中

40・7・21より40・7・31まで金二七、八〇〇円

40・8・1より40・8・10まで金一〇、〇四七円

40・8・11より40・8・20まで金一〇、二九二円

40・8・21より40・8・31まで金七、九二二円

合計 五六、〇六一円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例